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紅い徒花

2008.11.30 歪んだ鏡の向こうに少女は自分を見た

その笑顔が表だと感じるようになったのはいつからか。
その声が偽善だと思うようになったのはいつからか。

新しく私を取り囲むものはとても親切だった。
私を許す微笑はとても美しい。
私を励ます、滑らかで涼しげな声色はとてもきれいだ。
それなのに。
――きっかけは何だったか。
彼女の腕時計を壊してしまったときだと思う。
父親の形見だと寂しそうに笑っていた。でも、幸せだったんだろうなと思えるような、懐かしむ悲しみだった。
私にはないのに。
何一つ、ないのに。
虐待の果てにここへ来た私が決して知ることのない愛情。
それを彼女が持っている。とても不幸そうな顔をしながら。
卑怯だ。
誰もが同情するんだろうな、この悲しげな笑みに。
羨ましいのか妬ましいのかあるいは嫉妬か。
だから、私は壊したんだ。
落下する彼女の想いでは簡単に砕けた。
「ごめんなさい。わざとじゃないの、ごめんなさい」
決して責める事のない彼女に何度も。なんどもなんども、謝った。
涙を流しながら。
「ごめんなさい」
ずっと泣きじゃくる私。
「気にしないで。もう、大丈夫だから」
きっとこれは、表なんだ。偽善なんだ。
まるで私のように。

だって、私は思っているんだから。


(ざまあみやがれ!)
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