2008.04.05 死後の世界
ある日、俺はしょうも無いことで死んだ。
どうして自分は死んだのかなんてのは忘れてしまったが、自分が生きていないことは確かだった。
しかし、不安や悲しみや後悔なんてものはちっとも無く、やっとあの息苦しい世界から解放されたのだとおもうと妙に清々しい気持ちになった。
そういえば、此処は天国だろうか。それとも地獄だろうか。
どちらにしても依存も不思議も無い。それなりにだらしなく生きてきたし、何にも良いことなんてしてこなかった。同様に悪いことも。
悪いことをしたら地獄にいくのだろうか。いいことをしなければ天国にいけないのだろうか。
良い事をすれば天国にいくのだろうか。悪いことをしなければ地獄におちないのだろうか。
良いこと悪いことの区別はいったいどのへんだろうか。
疑問は山のように在るが、周りを見回してみても、何も無く、誰もいない。
いくら考えてても答えが出るわけじゃなし。
考えるだけ無駄だと早々に匙をなげてごろりと転がってみた。
床はあるんだなと、どうでもいい事に気がついた。
―――暫く眠ってれば、何か変化だって起きるかもしれない。
(実際、眠くて仕方が無いだけで、考えるのを放棄するための言い訳でもあるが)
そして、そのまま眠りに付いた。
こつ こつ こつ
徐々に近づく足音と共に、意識は少しずつ浮上しはじめた。
ぼやけた思考で、誰だろうと考える。
そういえば此処はどこだろう。あれ、俺は―――
―――そうか。
死んだんだった。
すっかり眼が覚めて、大きな欠伸をした。
こつ こつ こつ
足音のする方へ振り向いてみると、そこには白いワンピースを着た女性がいた。
「こ、こんにちは」
死後の世界での挨拶はすこし間抜けな気がしたが、ほかに言葉が浮かばず、軽く愛想笑いをうかべてみた。
「こんにちは」
女性は少し驚いたものの、微笑みながら言葉を返してくれた。
神様でも、閻魔サマでもなく、普通の人みたいだ。
どうしようかとすこし逡巡したものの、
「あの、此処はどこですか?」
無難に聞いてみることにした。
女性は、また少し驚いた顔をして、ああ、と納得した様子で頷いた。
「最近、あがってきた方ですか」
「……あがってきた?」
やっぱり此処は死後の世界で間違いないのか。
「ここは、天国なんですか? 地獄なんですか?」
一番気になっていたことだ。
すると女性は三度目の驚いた顔をみせて、なにいってるんですかと笑った。
「あなた、地獄からきたじゃないですか!」
スポンサーサイト