2008.11.30 歪んだ鏡の向こうに少女は自分を見た
その笑顔が表だと感じるようになったのはいつからか。
その声が偽善だと思うようになったのはいつからか。
新しく私を取り囲むものはとても親切だった。
私を許す微笑はとても美しい。
私を励ます、滑らかで涼しげな声色はとてもきれいだ。
それなのに。
――きっかけは何だったか。
彼女の腕時計を壊してしまったときだと思う。
父親の形見だと寂しそうに笑っていた。でも、幸せだったんだろうなと思えるような、懐かしむ悲しみだった。
私にはないのに。
何一つ、ないのに。
虐待の果てにここへ来た私が決して知ることのない愛情。
それを彼女が持っている。とても不幸そうな顔をしながら。
卑怯だ。
誰もが同情するんだろうな、この悲しげな笑みに。
羨ましいのか妬ましいのかあるいは嫉妬か。
だから、私は壊したんだ。
落下する彼女の想いでは簡単に砕けた。
「ごめんなさい。わざとじゃないの、ごめんなさい」
決して責める事のない彼女に何度も。なんどもなんども、謝った。
涙を流しながら。
「ごめんなさい」
ずっと泣きじゃくる私。
「気にしないで。もう、大丈夫だから」
きっとこれは、表なんだ。偽善なんだ。
まるで私のように。
だって、私は思っているんだから。
(ざまあみやがれ!)
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2008.11.18 劣等の僕
白く夢見がちな街角
欠片は何処に
君は何処に
赤く凍りがちな今日
答えは其処に
僕は其処に
理由もなく理由を探して
突き刺さりつつある未来
息の静寂 掌の温度
変わりつつある僕等
空へ走りだす世界
掠れた声で
君を衒う
雲へ落ちる幻
ひとりは其処に
僕をおいて
心も亡く 心を探して
加速しつつある未来
声は何色 脳裏に過る
変わりつつある願い
それならまだ眠れないまま
暖かさは酷く無機質だから
何度も夢を焦がし
何度も君を消し
何度も僕を殺し
何度も、
理由もなく理由を探して
突き刺さりつつある未来
息の静寂 掌の温度
変わりつつある僕等
変わりたくない僕等
変わらない劣等の僕
2008.11.16 しゃぼん玉
何度も息を吹き込んで、円筒の先からふわふわと虹色に輝く球体をつくり出す。
息が詰め込まれた石鹸水。それらの球体達は頼りなげにゆれている。
風にあおられくっ付いてしまったものは完全に融合することはなく、間には一枚の隔たりがある。うまく融合しても、さらに大きさをましながらもなんら変わることなく漂うのだ。
障害なく弾けたものは少量の水滴をとばして消えた。
地までたどり着き砕けたものは、少し地面を黒くしてしかしすぐに浄化された。
壊れゆくものたちの、何かしらの痕跡は時とともに薄れてゆく。
つくられるまえに、おちる前に、消えるものもある。
「きれい」
呟き、そしてまたつくりだす。
同じ動作を飽きずに、繰り返す。
彼はつくり続けた。
「あー、神様ってばまたやってるんですか? これ以上ふやさないでくださいよ!」
「どうして」
「だってもう隙間がないじゃないですか」
「大丈夫だよ。すぐ、消えるから」
2008.11.16 殻
患いながら 降り続ける
答えがひとつならば悲しめるのに
私は一人でいいのに
鎧は冷たく遮断しながら
私を鈍くして
滲んだ夢から守ってくれる
描きながら 腐り落ちる
この目がひとつならば背けれるのに
貴方がいればいいのに
孤独はとうめいに変わりながら
私を埋めて行く
拒んだリアルを遠ざけてくれる
麻酔は何処にもないの
夢の中にさえ
絡みつく鏡は答えない
私さえうつさない
砦はひとり迷いながら
私を殺してく
咽喉を焼いて逃がしてくれる
鎧は冷たく遮断しながら
私を鈍くして
滲んだ夢から守ってくれる
壊れた現実から守ってくれる