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紅い徒花

2008.02.28 籠の鳥

生まれたときから私は籠の中にいた。
それは私にとって当たり前の事であり、日常だった。
時折、窓の外に見える何処までも続く青い空を眺めては歌っていた。
そして近寄ってくる仲間達と共に、楽しそうに、楽しく、歌うのだ。

そんな日々に何の疑問も不満も感じていなかった私のもとに、彼女はやってきた。
彼女は最近、籠の中で過ごす私に疑問を感じていたそうだ。
「もっと自由に空を羽ばたいてみたいとは思わないの?」
私は首を傾げる。
「いつもあの空を見ているのは、憧れているからじゃないの?」
私はまた首を傾げる。
「ねえ、此処から出してあげるわ。だから一緒に飛びましょうよ」
彼女は私を囲む籠に近づき囁いた。
ほら、貴方の主人が帰ってくる前に。
そして鍵を開けようとする。
私は急いで止める。やめて、やめて。
「どうして? 自由にして上げようと思ったのに」
怒っているでもなく、呆れてるわけでもなく、ただ不思議そうに私の顔を覗き込む。
そこで私は尋ねてみる。
「貴方は私みたいになりたいと思う?」
「いいえ?」
彼女は不思議そうな顔から更に、奇異の目を向けて私をみる。
それと同じなのだ。
私も、空を舞う彼女達をみて思うのだ。
此処はとても居心地がいいのに彼女達は如何して、空を飛ぶのだろう。
「私は此処にいたい」
それだけは確実なことなのだ。
すると彼女は諦めたように私の隣の籠へと向かった。



主人は、帰ってくると私の隣の籠をみて瞠目した。
そして次に青ざめる。
そして玄関へ走り出す。
忙しい人だと呟き、更に私の隣人に呆れた。

何時もみる青い景色に、主人が入り込む。
この主人はとことん優しい。

猫に傷つけられた、赤い鳥を泣きながら地面に埋めた。

それでも私は悲しいとは思わない。
ただ、愚かだと想うのだ。

あの空を知っていただろうに。
喰い、喰われ息絶えてゆく仲間達の姿を知っていただろうに。

愚かな鳥よ、

守られている事にさえ気づかずに。


 

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