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紅い徒花

2010.02.23 ぼくらの冷蔵庫

冷蔵庫の中には怯えた瞳、此方へおいで、科白はどちらのものだろうな。 
ぼくらは鼻白んだ。めんどくさくて仕方ない。
空を仰ぐつもりで嘘くさい灯りに出くわして、結局同じ箱の中。
逃げられないことを知ったら何か変わるかな。考え足らずのぼくに教えて。
ぼくは君を引きずりだして、冷蔵庫は空っぽになった。大嫌いだよと囁き掛ける。君も大嫌いだよと震えた。
その手は温くて救うふりして抱き寄せた。
結局ぼくは君よりつめたくて。つめたくって。ちょっとないた。

一緒に入ろうか、ねえ。冷蔵庫の中へ。

君は青ざめた顔が白くなったころにぼくへ問うた。小さくうなずくとささやかな笑いがふたつ。
君はゆっくりとした所作でぼくを冷蔵庫へおしこんだ。そうして君もここへ。
抱きしめるそんな暖かさが僕をまた苦しませる。
さあ、ねむろう、ねむろう。
ふたりで眠り続けようね。
君はぼくの声でぼくをやさしくなぐさめた。

うん。ねむろう、ね。
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[小説]

2009.12.15 水圧

あのうねうねと気色の悪い期待が私を押しつぶしたとしても涙などどこにも落ちやしないのでしょうね。
ああ、ごめんなさい私はきっと貴方達が言うところの悪い子になります。どうぞ裏切り者とののしってください。それももうどうでもよい事ですから。はたしてあの耳障りなざあざあという水はなにを押し流してきたのでしょうか。まるでまるで、昨日の私の涙のようですね。泣き喚いて何が悪い。あなたたちだっていま泣き喚いてるじゃないですか。ほらほらなんて醜態、ねえ、あなたたちはそういったでしょう。私死んでしまおうとおもってたのだけれどそれもばからしい事ですよね。あんたたちは死ねというけれど私、もう言うこときいたりしないの。せめて、いい人たちだったといってあげましょう。

ああでも、それももうどうでもよい事ですね。



[小説]

2009.08.27 彼女と私

「今がよければ」
それでいいの、と私の唯一の友は言った。
私は、ああそうと軽く頷いてかたかたとキーボードをたたく。
彼女はいやな事があると必ずここにくる。
黙々とパソコンに向かっていても気にするそぶりすらみせず、ただ楽観的な言葉を繰り返す。
「貴方はきっと私の仲間でしょう」
能面のような笑みは少しうつろで、ああそうねと私は思う。
今がよければ、なんて考えは特に無いのだけれど。
状況は彼女よりも私のほうがその思想に近い気がする。
いつまでもこの家に居られるなんて思ってはいないし、いつか自立するということをぼんやり考えているだけの日々。
自堕落に過ごしているのはいまだけ、そうなんの根拠も努力も無く思っている。
「ねえ、今がよければそれでよかったの」
彼女の声がすとんと落ちてきた。
泣いている様な声だった。表情は相も変わらずうつろだった。
「今がよければそれでよかったの」
そうしたら、今は、今は、

「あっという間に消えてしまったのよ」

私は彼女を殴りつけた。
わけも無く、否、これ以上何も言わせないよう、殴りつけた。

真っ黒な液晶画面をひたすらに殴りつけた。



[小説]

2009.07.15 誕生

昔から文章を書くのが苦手だった。
事実の中に感情など見当たらなくて、シャーペンをくるくると指でまわす。
誰かが、こうするべきだと囁いたから。それだけなんだ。
別に望んでいたわけじゃない。
しかし、一度だって、一度だって、言葉に逆らったことはないだろう?
従順さは変わってはいないのだ。
ただ、傾ける場所を変えただけ。
唯一の光に気がついただけ。

『死にます』

ペンを走らせる。
これでいい。何も変わらない。
なのに、何故だろう。


(これが、嬉しいという感情なのか!)




[小説]

2009.05.16 目隠し

ただそれだけだった。
あの子に何も見せたくなかった。
煌びやかに見える宝石も、華やかなふりをするドレスも。
――私でさえも。
だからね、あの子の為じゃなくって自己満足だったんです。結局は。
キリトリ線というべきかな。ある日突然、彼女に何も見せたくないなら彼女以外のすべてを切捨てちゃえって思っちゃって。そりゃ思考がそこにぶつかったなら迷うことは何一つないわけで。強いて言うなら、あの子に会えなくなるなと少し寂しい思いでそれでももう決定事項になってて。
……ごめんなさいね、きっと今一人きりであの子は泣いているんでしょうね。
ああでも後悔なんてしてないんです、結局のところ目的は達成できたわけですから。これであの子の周りから私を含むすべてのものを除外できたんですから!


彼女の演説に、誰もが涙を流すこともできずに立ちすくんだ。
満足げに語る彼女を、呆然と見つめる数多の黒服たち。

黒縁の写真たての中の、彼女の妹だけが静かに微笑んでいた。



[小説]


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